PREの感覚を説明した図表

心拍数とペースの科学 — Vol.02 / 04|心拍ゾーン5段階の完全解説【どのゾーンで何が起きるか】

心拍ゾーン5段階の完全解説 — Pace & Heart Rate Science Vol.02
Pace & Heart Rate Science — Vol.02 / 04

心拍ゾーン5段階
完全解説
どのゾーンで何が起きるか

心拍ゾーンは単なる「強度の分類」ではない。各ゾーンでは異なるエネルギーシステムが活性化され、異なる生理学的適応が引き出される。Zone1で回復し、Zone2で有酸素基盤を作り、Zone4で乳酸耐性を高め、Zone5で限界を突破する——正しいゾーンで正しいトレーニングをすることが、効率的なパフォーマンス向上の核心だ。

COACH MIKE — RUN.NRG 監修:SA1NT HYBRID RUN CLUB 読了時間:約10分

心拍ゾーンとエネルギーシステムの関係

心拍ゾーンを理解するには、まず体内のエネルギーシステムを知る必要がある。人体には主に3つのエネルギー供給系がある——ATP-CP系(10秒以内)・乳酸系(最大2分)・有酸素系(理論上無制限)だ。

心拍ゾーンが低いほど有酸素系への依存度が高く、ゾーンが上がるにつれて無酸素系の関与が増える。この理解があれば、各ゾーンで何を鍛えているかが明確になり、目的に合ったトレーニング設計が可能になる。

心拍ゾーンは地図だ。しかし地図が正確であるためには、まず自分の最大心拍数を正確に知らなければならない。間違った最大心拍数から計算したゾーンは、縮尺の狂った地図と同じだ。

— Coach Mike, run.nrg

5つの心拍ゾーン:完全解説

Z1回復
回復ゾーン — 脂肪燃焼・積極的回復 最も低強度のゾーン。有酸素系が完全に主導し、脂肪をエネルギー源として最大限活用する。乳酸はほぼ発生しない。鼻呼吸のみで走れる。ハードセッション翌日の回復走・ウォームアップ・クールダウンに最適。 使用場面:回復走・ウォームアップ・クールダウン
50〜60% 最大心拍数180の場合:90〜108拍 RPE 1〜2(非常に楽)
Z2有酸素
有酸素ゾーン — ミトコンドリア・毛細血管・基盤構築 ★最重要 ランナーが最も多くの時間を過ごすべきゾーン。ミトコンドリア増殖・毛細血管新生・脂肪酸酸化酵素の発達が最大化される。会話は普通にできる。LSD・イージーランのほぼすべてをここで実施する。 使用場面:LSD・イージーラン・有酸素開発走
60〜70% 最大心拍数180の場合:108〜126拍 RPE 3〜4(楽〜少し楽)
Z3テンポ
テンポゾーン — 血液循環効率・レースペース開発 有酸素と無酸素の境界領域。乳酸が蓄積し始めるが処理が追いつくギリギリの強度。会話はできるが長文は苦しい。テンポラン・ファルトレク・5〜10kmレースペース練習に対応。ベーストレーニング中は「意図せずここに入る」ことを避ける。 使用場面:テンポラン・ファルトレク・レースペース練習
70〜80% 最大心拍数180の場合:126〜144拍 RPE 5〜6(やや苦しい)
Z4乳酸閾値
乳酸閾値ゾーン — スピード持久力・乳酸耐性向上 乳酸閾値(LT)付近の高強度ゾーン。1500m〜5000mのレース速度に対応。高い乳酸耐性を鍛える。会話は不可能。短時間(数分〜20分程度)しか維持できない。インターバルトレーニングの主要強度帯。 使用場面:インターバル・レースペース走(短距離〜5km)
80〜90% 最大心拍数180の場合:144〜162拍 RPE 7〜8(非常に苦しい)
Z5最大強度
最大強度ゾーン — VO2max・最終スプリント 完全な無酸素領域。数分しか維持できない。VO2maxの刺激と最大スピードの開発に特化。レースのラスト400mの爆発的スプリントに使う「取っておくべき切り札」。日常トレーニングで入ることはほぼない。 使用場面:レース最終スプリント・VO2maxインターバル
90〜100% 最大心拍数180の場合:162〜180拍 RPE 9〜10(最大苦痛)

RPE(主観的運動強度):心拍計なしで強度を管理する

Coach Mikeが「心拍計より重要」と位置づけるのがRPE(Rating of Perceived Exertion)——自分の体の感覚で強度を判断する能力だ。世界のトップランナーは心拍計なしでも正確な強度管理ができる。その感覚を育てることが長期的な上達に直結する。

Coach Mike版 RPEスケール(ランニング特化)
1
歩行
完全な休息レベル。心拍数はほぼ安静時と変わらない
2
回復ジョグ
非常にゆっくりとしたジョギング。歌いながら走れる。Zone1に対応
3
イージーラン
普通に会話できる。鼻呼吸でも問題ない。Zone2の中心。最も多く走るべき強度
4〜5
LSD
最初はRPE3でスタートし、後半に疲労で5に上がることがある。Zone2全体に対応
6〜7
テンポラン
会話は短文なら可能。Zone3〜4に対応。「あと3〜5km走れるが走りたくない」という強度
8〜9
インターバル
会話不可能。Zone4〜5に対応。全力の80〜90%。同じペースで追加インターバルは不可能な強度
9〜10
レース/全力
最大苦痛。Zone5。レース本番またはVO2maxテスト時のみ。日常トレーニングでは不要

あなたの心拍ゾーンを計算する

以下のテーブルは「220−年齢」を使った概算値だ。より正確な値はVol.01のフィールドテストで得た実測最大心拍数を使って計算すること。

年齢別 心拍ゾーン早見表(220−年齢ベース・概算)
年齢
Z1(50〜60%)
Z2(60〜70%)
Z3(70〜80%)
30歳(Max:190)
95〜114
114〜133
133〜152
40歳(Max:180)
90〜108
108〜126
126〜144
50歳(Max:170)
85〜102
102〜119
119〜136
60歳(Max:160)
80〜96
96〜112
112〜128

3ゾーンモデル:シンプルに考えたい人へ

スポーツ生理学者Stephen Seilerは、5ゾーンモデルを3ゾーンに簡略化することを提唱している。Coach Mikeもこの考え方を支持する——特に初心者や5ゾーンに混乱しているランナーには、3ゾーンの方が実用的だ。

3ゾーンモデル(Seiler方式)

Zone1(〜乳酸2mmol):脂肪燃焼・有酸素トレーニング。最大心拍数の80%未満。ここで80%以上の時間を過ごす。

Zone2(乳酸2〜4mmol):中程度の有酸素トレーニング。30分程度維持できるペース。最大心拍数の80〜87%。

Zone3(乳酸4mmol超):無酸素領域。非常に高強度。最大心拍数の87%超。週の20%以下に抑える。

「5ゾーンは専門家向け。まず3ゾーンを正確に理解することが先決だ」——Coach Mike
⚠️ ゾーンは「ガイドライン」であり「絶対ルール」ではない

心拍ゾーンは統計的なグループデータから導き出されたモデルだ。個人への適用には必ず誤差が生じる。「Zone2の上限で走っているのに非常に楽に感じる」「Zone2なのに会話ができない」という場合、自分の実測最大心拍数を確認し、RPEと組み合わせて判断すること。数字ではなく体の感覚を最終的な判断基準にすることを忘れないようにする。

SA1NT HYBRID RUN CLUB

心拍ゾーンの理論をグループセッションで実際のトレーニングに落とし込む。Coach Mikeと一緒に、自分の正しいゾーンを体感しながら覚える。

クラブの詳細を見る

まとめ:ゾーンを知り、感覚で走る

5つの心拍ゾーンはそれぞれ異なるエネルギーシステムと生理学的適応に対応している。Zone1〜2で有酸素基盤を構築し、Zone4でスピード持久力を高め、Zone5をレースの切り札として温存する——これが80/20ルールの実践的な意味だ。しかし最終的な目標は、心拍計なしでもRPEによって正確な強度を判断できる感覚を育てることだ。数字は道具であり、体の感覚こそが羅針盤だ。

← メディア一覧に戻る