ロングラン科学 — Vol.03 / 05|心拍ゾーンとLSDの科学【数字が示す「正しい遅さ」の定義】
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心拍ゾーンとLSDの科学
数字が示す「正しい遅さ」の
定義
「会話ができるペース」は感覚的に正しい。しかし数字で管理したいランナーには心拍ゾーンという強力なツールがある。Zone1・Zone2・MAF法・最大心拍数の計算——それぞれの意味と限界を理解したうえでLSDに活用する方法を、Coach Mikeの実例データとともに解説する。
心拍ゾーンとは何か
心拍ゾーンとは、最大心拍数(HRmax)に対するパーセンテージで運動強度を分類したものだ。一般的に5ゾーンで表現され、それぞれのゾーンで活性化されるエネルギーシステムと生理学的適応が異なる。LSDに最適なのはZone1とZone2だ。
最大心拍数の計算:220−年齢の限界と使い方
最も広く使われる最大心拍数の推定式は「220−年齢」だ。シンプルで即座に計算できるが、個人差が大きいという限界がある。研究によれば、実際の最大心拍数は同年齢でも±10〜20拍/分の個人差がある。
それでもCoach Mikeはこの計算式を「完璧ではないが優れた出発点」として支持する。Coach Mike自身(58歳時点)の例:220−58=162×0.65=約105拍/分。これが彼のLSDペース時の心拍数とほぼ一致する。
Step 1:最大心拍数の推定 = 220 − 年齢
Step 2:LSD上限心拍数 = 最大心拍数 × 0.65
Step 3:LSD開始心拍数 = 最大心拍数 × 0.60
例)35歳:最大心拍数185 → LSD範囲:111〜120拍/分
例)45歳:最大心拍数175 → LSD範囲:105〜114拍/分
例)58歳:最大心拍数162 → LSD範囲:97〜105拍/分
※これはあくまで出発点。実際には会話テスト・鼻呼吸テストで感覚的に調整することが重要。
MAF法(180−年齢)との違い
フィル・マフェトン博士が提唱した「MAF法(180−年齢)」は、最大有酸素機能(Maximum Aerobic Function)を測る指標として広く使われる。Coach Mikeに「MAFの方がいいのでは?」という質問が多く寄せられるが、彼の答えは明快だ。
MAFは「最大有酸素機能」——つまり有酸素系が最高効率で動く上限値であり、「イージーラン」の上限とは異なる。Coach Mike自身の例:180−58=122拍/分がMAF値だが、彼の実際のロングランは105拍/分前後だ。高い有酸素フィットネスを持つランナーにとって、MAF値は「マラソンペース」に近い強度であり、回復走には速すぎる場合がある。
MAFは最大有酸素機能であり、イージーランの定義とは同じではない。私のMAFは約122拍/分だが、それは私のマラソンペースに近い。イージーランは105拍/分前後で走る。高い有酸素フィットネスを持つランナーにとって、MAFペースは決して「ゆっくり」ではない。
— Coach Mike, run.nrg
心拍ドリフト現象:ロングランの後半に起きること
ロングランの後半、ペースを変えていないのに心拍数が上昇していく——これを「心拍ドリフト(Cardiac Drift)」と呼ぶ。発汗による脱水・深部体温の上昇・筋肉疲労による代償的な動員増加が重なり、同じ機械的出力(ペース)に対して心臓がより多くの仕事をしなければならなくなる現象だ。
LSDでは、心拍ドリフトを許容しながらペースを落とすことが正解だ。「心拍数を一定に保つためにペースを落とす」という判断が、正しいLSDの強度管理を意味する。心拍数が上がってもペースを維持しようとすることが、LSDをテンポランに変えてしまう最も多いパターンだ。
心拍計がない場合:感覚的な強度管理
心拍計を持っていなくても、正しいLSD強度を保つ方法がある。Coach Mikeが30年以上のコーチング経験から信頼する「感覚的指標」は2つだ。
①会話テスト:走りながら、文章を完結させながら話せる状態を維持する。「は・い・・・そ・う・で・す」と途切れ途切れになったら速すぎる。
②鼻呼吸テスト:鼻だけで呼吸できる状態を維持する。口呼吸が必要になった時点でペースを落とす。
この2つは科学的な換気閾値(VT1)と高い相関があることが複数の研究で確認されている。数字がなくても、体は正直に強度を教えてくれる。

Coach Mike自身は「トレーニング中は心拍計を見ない。帰ってから確認するだけだ」と語る。心拍計は有用なツールだが、数字に縛られすぎると走りの感覚が鈍る。目標は「心拍計なしでも正しい強度で走れる感覚を育てること」だ。心拍計は答えを教えるためではなく、感覚を校正するために使う。
まとめ:ゾーンは地図、感覚はコンパス
心拍ゾーンはLSDの正しい強度を理解するための地図だ。Zone1〜2(最大心拍数の60〜70%)がLSDの領域であり、この範囲で長時間走ることで有酸素系への最大適応が得られる。しかし最終的に重要なのは、数字に頼らずとも「この感覚が正しいゾーンだ」と体で判断できる感覚を育てることだ。心拍計を校正ツールとして使いながら、会話テストと鼻呼吸テストを日常の指標にする——これがCoach Mike流の心拍管理だ。
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