スケールする時、重さを下げる?回数を減らす?調整の優先順位

目的・制限時間・技術・総量を見ながら、WODの刺激を残したまま自分に合ったスケールを選ぶ

カテゴリー:WOD Strategy|Vol.38

執筆・編集:SA1NT JAPAN編集部

専門監修:板谷友弘(UFIT Tony Coach/CrossFit Uninterrupted オーナー兼ヘッドコーチ)

CrossFitのWODを経験して、こんな経験はありませんか?

「この重量は重すぎる気がする」

「でも重量を下げたらトレーニングにならないのでは?」

「30回は多すぎる。回数を減らした方がいい?」

「Pull-upができない場合は、回数を減らすのか、別の動作に変えるのか?」

CrossFitでは、こうした調整をScaling(スケーリング)と呼びます。

スケーリングは、単純にWODを簡単にすることではありません。

良いスケーリングとは、WOD本来の「刺激」をできるだけ残したまま、自分が安全かつ適切な強度で完遂できるように調整すること。
重量、回数、動作のどれを変えるかは、「何ができないか」だけではなく、そのWODが何を狙っているかから考えます。

この記事では、WODで重量・回数・Movementのどれを調整すればいいのか、優先順位を整理します。

目次


CrossFitのスケーリングとは?

Scaling(スケーリング)とは、WODを自分の能力に合わせて調整することです。

代表的な調整方法は、

  • 重量を下げる
  • 回数を減らす
  • 距離を短くする
  • 高さを低くする
  • 難しいMovementを簡単なMovementへ変更する
  • セット数やラウンド数を減らす

などです。

初心者だけが行うものではありません。

その日のコンディション、怪我からの復帰、技術習得中、WODの狙いなどによって、中級者・上級者でもスケーリングを使います。

Scaling=「弱い人用」ではありません。
狙った強度とMovement qualityを保つためのトレーニング設計です。


最優先はWODの「刺激」を守ること

スケーリングを考えるとき、一番重要なのがWODのStimulus(刺激)です。

例えば、次のWODがあったとします。

5 rounds For Time
10 Thrusters
10 Pull-ups

このWODが「短い休憩でテンポよく進める高強度WOD」だとします。

ところが、RX(指定の重さ)ではThrusterを毎回1〜2回ずつしかできず、1セット終えるだけで2分かかってしまう。

これでは本来のWODが狙っているトレーニングとは違うトレーニングになってしまいます。本来は心肺と筋持久力を狙っているのに、実際には最大筋力に近いトレーニングになってしまいます。

TONYコーチポイント|「RXできるか」より「WODが何を狙っているか」
RX(指定重量)を何とか動かせるからといって、その重量が必ず正しいとは限りません。WODが速いテンポで進む設計なら、ある程度まとまった回数を続けられる重量へ調整した方が、狙った刺激を得やすくなります。


まず確認する4つのこと

スケーリングを決める前に、次の4つを確認します。

① WODの目的は何か?

短時間の高強度なのか。

長時間の持久系なのか。

重い重量を扱うことが目的なのか。

Gymnasticsの技術を含むWODなのか。

② 制限時間はどのくらい?

10分Time Capなのに、自分のペースでは20分以上かかるなら何かを調整する必要があります。

③ 技術的に安全にできるか?

重量が持てても、フォームが崩れるなら調整が必要です。

④ 総量を完遂できるか?

1回できることと、50回できることは違います。

WOD全体でそのMovementを繰り返せるかを考えます。

「1回できる」=「そのWODで使える」とは限りません。
WODでは、その動作を疲労した状態でも何度も再現する必要があります。


重量・回数・動作|調整の基本優先順位

絶対的なルールではありませんが、多くのWODでは次のように考えると整理しやすくなります。

問題 最初に検討する調整 理由
重量が重すぎてテンポが出ない 重量を下げる Movementとレップ数を保ちながら刺激を近づけやすい
1セットの回数が多すぎて総量をこなせない 回数を減らす 動作と負荷を維持しながらVolumeを調整できる
Movement自体が技術的にできない・安全にできない 動作を変更する 無理に行うとフォーム崩れや怪我につながる
全体としてTime Cap(タイムキャップ・予定時間内)に大きく間に合わない 重量・回数・動作を組み合わせて調整 WOD全体の時間と刺激を合わせる

つまり、単純に「全部半分にする」のではありません。

何がボトルネックになっているかを見ます。


① 重量を下げるべきケース

最も分かりやすいのが、指定重量が重すぎる場合です。

例えば、

  • フォームが崩れる
  • 毎回1〜2回で止まる
  • バーを持つまで長く休む必要がある
  • タイムキャップ(予定している時間内)に終わらない

場合は、重量を下げることを検討します。

特にThruster、Deadlift、Clean、Snatchなどは、指定重量を何とか1回持てるだけではWOD用の重量として重すぎる可能性があります。

WODで使う重量は「1回持てる重量」ではなく、「狙ったレップ数を繰り返せる重量」。

例えば21 Thrustersの場合

指定重量なら、

3回 → 長く休む → 2回 → 長く休む

という状態なら、重量を下げた方が良い場合があります。

重量を下げて、

7+7+7

または11+10

程度で進められるなら、WOD本来のテンポに近づけやすくなります。


② 回数を減らすべきケース

重量やMovement自体には問題がないものの、総レップ数が多すぎる場合があります。

例えば、

5 rounds
20 Wall Balls
20 Box Jumps

1ラウンド目は問題なくできても、合計100 Wall Balls+100 Box Jumpsになると、初心者にはかなり大きなVolumeです。

この場合は、Movementや重量を維持したまま、

20回 → 12〜15回

などへ減らす方法があります。

これならMovementそのものを練習しながら、過度な疲労を避けられます。

POINT|できるMovementなら、まず「量」を調整する方法もある
フォームも重量も問題ない場合は、Movementを変更する必要はありません。総量が多すぎるなら、レップ数やラウンド数を減らすことで同じMovementを練習できます。


③ 動作そのものを変えるべきケース

Movementを変更するのは、主に技術的にまだ習得できていない場合です。

例えば、

  • Pull-upがまだできない
  • Double Underができない
  • Handstand Push-upができない
  • Toes to Barで足がバーに届かない
  • Muscle-upがまだできない

場合です。

この場合、回数を減らしてもMovementそのものができないので、別のMovementへスケールします。

Pull-upの場合

Ring RowやBand Assisted Pull-upなど、その人の現在のレベルに合う動作へ変更します。

Double Underの場合

Single Underへ変更したり、練習レップを設定したりします。

Handstand Push-upの場合

Pike Push-upやBox Pike Push-upなどへ段階を下げます。

Movementの変更は「できないから諦める」のではありません。
同じMovement patternや必要な筋力を練習しながら、将来RXへ近づくための段階です。


制限時間から逆算する

スケーリングを考えるとき、Time Cap(制限時間)は非常に分かりやすい基準になります。

例えばTime Cap 12分のWODで、コーチが想定している完遂時間が8〜12分だとします。

自分がRXで行うと、1ラウンド目だけで5分。

全体では20分以上かかりそう。

この場合はRXに固執するより、スケールして12分以内で完遂できる方がWOD本来の目的に近づきます。

Time Capは「できなかったら失敗」の時間ではありません。
WODがどのくらいの強度・時間で設計されているかを知るための重要な情報です。


技術系Movementは「できるか」より「再現できるか」

GymnasticsやOlympic Weightliftingでは特に重要です。

例えばDouble Underが最高記録で5回できる人に、

50 Double Unders × 5 rounds

が出たとします。

「5回できるからRXで挑戦する」

という考え方もできますが、250回をWODの中で行うのは別の能力です。

失敗を何度も繰り返し、ほとんどの時間を縄跳びで止まってしまえば、本来のWODの刺激から離れてしまいます。

最高記録ではなく、疲れた状態でも再現できるレベルで判断する。

例えば、

  • Double Underの回数を減らす
  • 一定時間だけDouble Underへ挑戦し、その後Single Underへ変更する
  • Single Underへ完全スケールする

などの方法があります。

▶ Double Underの練習法|1回から連続回数へ


筋力不足と技術不足を分ける

同じ「できない」でも原因によってスケール方法は変わります。

原因 スケール例
筋力不足 Thrusterの重量が重い 重量を下げる
筋持久力不足 20回はできるが後半で完全に止まる 回数・総量を減らす
技術不足 Double Underをまだ習得していない Single Underや練習レップへ変更
可動域・安全性 深いSquatで痛みがある 可動域・Movementをコーチと調整

ここを分けると、ただ簡単にするのではなく、弱点そのものを改善するスケーリングができます。


WOD別スケーリング例

例① 21-15-9 Thruster+Pull-up

問題:Thrusterが重いがPull-upはできる。

調整:Thrusterの重量を下げ、Pull-upはそのまま。

両方を変更する必要はありません。

例② 50 Wall Balls+50 Box Jumps

問題:動作はできるがVolumeが大きすぎる。

調整:各50回を30〜40回へ減らす。

フォームとMovementを維持したまま、総量を調整します。

例③ 30 Toes to Bar

問題:Toes to Barが1〜2回しかできない。

調整:Knee Raiseや別の段階的Movementへ変更。

▶ Toes to Barのコツ|届かない・連続できない原因を改善

例④ 5 rounds|400m Run+15 Thrusters

問題:Runningは問題ないがThrusterが重く、毎回長時間止まる。

調整:Runningの距離ではなく、まずThrusterの重量を調整。

問題がある部分だけを変えます。

例⑤ 10分AMRAP|10 Burpees+10 Pull-ups

問題:Burpeeは問題ないがPull-upができない。

調整:Pull-upだけRing Rowなどへ変更。

Burpeeの回数まで減らす必要はありません。


軽くしすぎてもWODの刺激は変わる

「重すぎる」の反対に、「軽くしすぎる」場合もあります。

本来ある程度の筋力負荷が必要なWODなのに、非常に軽い重量にすると、ただ速く動くだけのWODになります。

例えば重めのDeadliftがポイントのWODで、極端に軽くして50回連続できるようにすると、狙いが大きく変わります。

スケーリングは、ただ簡単にするほど良いわけではありません。

TONYコーチポイント|軽くしすぎないことも大切
重量を下げる場合でも、そのWODで求められている負荷感は残します。すべてをUnbrokenで高速に終えられるほど軽くするのではなく、狙った時間とレップ数の中で適度に負荷を感じられる重量を選びます。


RXにこだわりすぎない

CrossFitではRXという表記があるため、どうしても「RXでやること」が目標になりやすくなります。

もちろん、RXで完遂できる能力を目指すことは一つの目標です。

しかし、毎回無理にRXへ挑戦することが最速の上達方法とは限りません。

例えば、

  • 重量が重すぎてフォームが崩れる
  • Movementで何分も止まる
  • Time Capに毎回大幅に間に合わない
  • 疲れて危険なフォームになる

状態なら、適切にスケールして良いMovementを繰り返した方が、長期的には成長しやすくなります。

RXは「今日絶対に守るルール」ではなく、「将来目指せる基準」の一つ。


スケーリングは上達のための段階

スケールを使ったからといって、ずっと同じスケールを続ける必要はありません。

例えばPull-upなら、

Ring Row

Band Assisted Pull-up

Strict Pull-up

Kipping Pull-up

というように段階的に進められます。

重量も同じです。

30kgでWODを完遂できる。

次は32.5kg。

その次は35kg。

このように少しずつRXへ近づけます。

良いスケーリングには「次の段階」があります。
今日できるMovementで質の高いWODを行いながら、練習では一つ上のレベルを身につけていきます。


よくある質問

WODで重量が重いと感じたら、すぐ軽くしていいですか?

まず、その重量で何回程度まとまって動けるか、フォームが維持できるか、WODの想定時間内に進められるかを確認します。1〜2回ずつしかできず長い休憩が必要になる場合は、重量を下げる方がWOD本来の刺激に近づくことがあります。

重量と回数、どちらを先に下げるべきですか?

重量が原因で動作速度やフォームが大きく崩れている場合は、まず重量を調整します。重量やMovementには問題なく、単純に総量が多すぎる場合は回数を減らす方法が使えます。

Pull-upができない場合、回数を減らせばいいですか?

Pull-up自体がまだできない場合は、回数を減らすだけでは十分な調整にならないことがあります。Ring RowやBand Assisted Pull-upなど、現在の能力に合ったMovementへ変更する方法があります。

1回できるMovementならRXでやってもいいですか?

WODでは1回できることより、そのレップ数を疲れた状態でも繰り返せるかが重要です。最高記録が数回だけの場合、大量レップのWODでは回数を減らす、または別Movementへ変更する方が適切なことがあります。

スケールすると効果が下がりませんか?

適切なスケールであれば、むしろWOD本来の刺激を得やすくなります。重すぎる重量で長時間止まるより、適切な重量でテンポよく動く方が、そのWODが狙う心肺・筋持久力などを鍛えやすい場合があります。

毎回RXを目指した方が上達しますか?

必ずしもそうではありません。技術や重量が自分の現在の能力を大きく超えている場合、適切にスケールしながら良いフォームとMovementを繰り返す方が上達につながることがあります。練習では一段階上のスキルや重量へ挑戦し、WODでは目的に合うスケールを選ぶ方法もあります。

Time Capに入らない場合はスケールが間違っていますか?

必ずしもそうとは限りませんが、毎回大幅にTime Capを超える場合は、重量、回数、Movementのどれかが現在の能力に対して高すぎる可能性があります。コーチと相談し、WODの想定時間と刺激を確認して調整します。

初心者は毎回スケーリングしていいですか?

問題ありません。初心者はまずMovementを安全に習得し、適切な強度でWODを完遂することが重要です。筋力や技術が上がるにつれて、重量、回数、Movementを少しずつRXへ近づけていきます。


まとめ|スケールは「簡単にする」のではなく「刺激を合わせる」

  1. まずWODの目的とStimulusを確認する
  2. 制限時間と想定完遂時間を見る
  3. 重量が重すぎるなら、まず重量を調整する
  4. Movementはできるが総量が多いなら回数を調整する
  5. Movement自体ができない場合は段階的な動作へ変更する
  6. 1回できることとWODで繰り返せることを分けて考える
  7. 筋力不足と技術不足を分ける
  8. 問題のない種目まで全部スケールしない
  9. 軽くしすぎてWODの刺激を変えない
  10. RXそのものを目的にしすぎない
  11. スケーリングから少しずつ次の段階へ進む

CrossFitのスケーリングで迷うと、

「重量を下げるべき?」

「回数を減らすべき?」

「Movementを変えるべき?」

と考えます。

しかし、その前に見るべきなのはWODの目的です。

短時間でテンポよく動くWODなのか。

ある程度重い負荷を繰り返すWODなのか。

長時間一定のペースを維持するWODなのか。

この刺激をできるだけ残したまま、自分の現在の能力へ合わせます。

良いスケーリングとは、WODを簡単にすることではありません。自分にとって「同じWOD」になるように難易度を調整することです。

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本記事はSA1NT JAPAN編集部が企画・調査・執筆し、CrossFit Uninterruptedのオーナー兼ヘッドコーチである板谷友弘氏の専門監修を受けて作成しています。


参考資料


この記事はSA1NT JAPAN編集部が作成し、CrossFit Uninterruptedヘッドコーチであり、HYROX競技にも挑戦している板谷友弘氏の監修を受けています。

専門監修

板谷友弘(UFIT Tony Coach/CrossFit Uninterrupted オーナー兼ヘッドコーチ)

板谷友弘(いたや ともひろ)氏は、日本を代表するクロスフィットアスリートであり、世界最高峰の舞台であるCrossFit Gamesに出場。2021年にはCrossFit GamesのMen 35–39部門で世界15位。さらに2026年には、40歳以上の世界トップ選手が競うMasters CrossFit GamesのMen 40–44部門に出場し、世界29位を記録しました。2026年、日本人として世界最高峰の舞台に立ったのは彼1人のみです。

また近年はHYROX競技にも積極的に取り組み、本格的なランニング競技経験がない中、HYROX大阪大会では総合3位・日本人選手2位に輝きました。

CrossFit Gamesという世界最高峰の舞台を選手として経験し、現在も現役アスリートとして挑戦を続けながら、世界レベルの競技経験と、CrossFitとHYROXの両方を深く理解する数少ない日本人コーチとして数多くのアスリートを指導してきた経験を活かし、本記事の監修を担当しています。

板谷友弘コーチ UFIT Tony Coach

TONYコーチ監修ポイント:

スケーリングを考えるときは、まず「このWODで何を狙っているのか」を確認することが重要です。指定重量を何とか1回動かせるからといって、その重量がWODに適しているとは限りません。重量が原因で長く止まるなら重量を下げる。Movementはできるけれど総量が多すぎるならレップ数を減らす。Movement自体をまだ安全に繰り返せないなら段階的なMovementへ変更する。こうしてWOD本来の時間やテンポに近づけることが、良いスケーリングです。RXにこだわるより、良いフォームと適切な強度でトレーニングを積み重ね、少しずつ次のレベルへ進んでいきましょう。

トニーコーチの情報はこちらから↓
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