グリップファティーグ(Grip Fatigue)を防ぐ|WODで握力を残す戦略

握り方、セット分割、前腕の力み、チョークを見直す

カテゴリー:WOD Strategy|Vol.42

執筆・編集:SA1NT JAPAN編集部

専門監修:板谷友弘(UFIT Tony Coach/CrossFit Uninterrupted オーナー兼ヘッドコーチ)

CrossFitのWODで、心肺はまだ動ける。脚も残っている。

それなのに、握力だけが先に終わってしまう。

Pull-upでバーを握れない。

Toes to Barで前腕がパンパンになる。

Deadliftの重量は持ち上げられるはずなのに、手が開いてくる。

CleanやSnatchでバーを握るだけで前腕が疲れる。

こうした状態がGrip Fatigue(グリップファティーグ/握力疲労)です。

WODでは「握力が強いか」だけではなく、「握力をどこで、どれだけ使うか」が重要です。
最初のMovementで握力を使い切れば、その後にPull-up、Toes to Bar、Deadlift、Cleanなどが出てきたとき、一気にペースが落ちることがあります。

この記事では、握り方、親指、前腕の力み、セット分割、チョーク、グリップ、種目順などから、WODの最後まで握力を残す方法を解説します。

目次


Grip Fatigue(グリップファティーグ)とは?

Grip Fatigueとは、簡単に言えば手指や前腕が疲れて、握る力を維持できなくなった状態です。

CrossFitでは、握力を使うMovementが非常に多くあります。

  • Pull-up
  • Chest to Bar
  • Toes to Bar
  • Muscle-up
  • Deadlift
  • Clean
  • Snatch
  • Kettlebell Swing
  • Dumbbell Movement
  • Farmer's Carry
  • Row

しかもWODでは、これらが単独で出るとは限りません。

例えば、

Toes to Bar → Deadlift → Row

という組み合わせなら、3種目すべてで手と前腕を使います。

そのため1種目だけなら問題なくても、WOD全体では握力がボトルネックになることがあります。

握力戦略で見るべきなのは「今の種目」ではなく、「この後も何回握るのか」。


なぜWODでは握力が先に終わるのか

握力疲労にはいくつかの原因があります。

原因 起きやすいこと
握りすぎる 必要以上に手指と前腕へ力が入る
セットを長くしすぎる 1セット目で前腕を使い切る
握力系Movementが連続する 回復する前に再び握力を使う
バーベルの握り方が合っていない 手や腕だけでバーを保持しようとする
鉄棒で無理に粘る バーから落ちる直前まで握り続ける
チョークやグリップの使い方 滑りや余計な握り込みにつながることがある

つまり、Grip Fatigueを防ぐために必要なのは、単純な握力トレーニングだけではありません。

握力を無駄に使わない技術とWOD戦略も重要になります。


① 最初から握りすぎない

バーから落ちたくない。

バーベルを離したくない。

そう考えると、無意識に強く握り込んでしまうことがあります。

しかし、必要以上に握ると前腕にも力が入り続けます。

特にCleanやSnatchのように、脚や股関節で生み出した力をバーへ伝えたいMovementでは、腕全体が固まりすぎることが動作の邪魔になる場合があります。

TONYコーチポイント|前腕を「ガチガチ」にしない
TONYコーチはバーベルの握り方について、重量が重くなると普通の握りではバーを保持しようとして腕に力が入り、「この辺がガチガチになってしまう」と説明しています。腕に力が入りすぎると、脚から生み出した力をバーへ伝えにくくなり、スピードも出にくくなります。バーを落とさないための握りは必要ですが、必要以上に腕全体を固めないことも重要です。

これは「弱く握ればいい」という意味ではありません。

バーを安全にコントロールできる握りを保ちながら、不要な力みを減らします。


② 親指を使ってバーを安定させる

握力を考えるとき、4本の指だけでバーを引っかけるのではなく、親指まで含めてどう握るかを考えます。

鉄棒でもバーベルでも、手の中でバーが動けば、それを止めるためにさらに強く握る必要が出てきます。

逆に、バーが手の中で安定すれば、余計な握り直しを減らすことができます。

ただし、Pull-upやToes to Barの握り方と、CleanやSnatchのフックグリップは同じものではありません。

Movementごとに適した握り方を使い分けます。

「握力を使わない」のではなく、「バーを安定させるために必要な場所へ力を使う」。


③ バーベルではフックグリップを使い分ける

CleanやSnatchで重要になるのがHook Grip(フックグリップ)です。

フックグリップでは、まず親指をバーへ巻き、その親指の上から人差し指や中指をかぶせます。

これによってバーを手の中でロックしやすくなります。

▶ フックグリップ(Hook Grip)のやり方|痛みを減らしバーベルを安定させる

TONYコーチポイント|フックグリップで握力の消耗を減らす
TONYコーチは、フックグリップでは親指をロックすることで、他の指へ必要以上に力を入れずにバーを保持しやすくなり、腕の力も抜きやすいと説明しています。その結果、脚の力をバーベルへ伝えやすくなり、バーベルのスピードにもつながります。

一方、フックグリップには親指が痛くなりやすいという特徴があります。

慣れていない人が、いきなり高レップのWODですべてフックグリップにする必要はありません。

軽い重量や短いセットから練習し、必要であれば親指へのテーピングなども利用しながら徐々に慣れていきます。


④ 握力が限界になる前にセットを切る

握力疲労で最も避けたいのが、バーを握れなくなるギリギリまで続けることです。

例えば20 Toes to Bar。

最大20回できるから、1セット目で20回Unbroken。

しかしその結果、前腕がパンパンになり、2セット目は5回ずつしかできない。

これなら最初から、

  • 10+10
  • 8+7+5
  • 5+5+5+5

などに分けた方が、WOD全体では速くなる可能性があります。

握力系Movementは「握れなくなってから休む」のではなく、「まだ握れるうちに一度離す」。

これはVol.39で解説したUnbroken戦略と同じ考え方です。

まだ数回できる余裕がある段階で一度バーから降りる。

短く休む。

そしてもう一度同じセットを再現する。

▶ アンブロークン(Unbroken)で行くべき?セット分割と休憩戦略


⑤ 次のMovementまで見て握力を使う

Grip Fatigueでは、種目の並び順が非常に重要です。

例えば、

15 Toes to Bar → 10 Deadlifts

の場合。

Toes to Barを15回Unbrokenで行えば速いかもしれません。

しかし、その15回で握力を大きく使い、Deadliftのバーを持てなくなれば意味がありません。

逆に、

8+7でToes to Barを終える。

短い休憩でDeadliftへ移動する。

Deadliftを予定したセットで続ける。

こちらの方が全体として安定する場合があります。

握力系Movementが連続するときは、1種目目で握力を使い切らない。
今やっているMovementのセット数ではなく、次のMovementまで含めて考えます。


Pull-up・Toes to Barで握力を残す

Pull-upやToes to Barなど鉄棒系Movementは、Grip Fatigueが起きやすい代表的な種目です。

特に高レップになると、前腕だけではなく、手のひらの摩擦や滑りも問題になります。

限界までぶら下がらない

1回でも多く続けようとして、握力が完全に終わるまでバーに残らないようにします。

まだ数回できる余裕があるところで降りれば、短い休憩で再びバーへ戻りやすくなります。

キッピングを腕だけで行わない

キッピングPull-upやToes to Barでは、体幹や肩、股関節の動きを使って身体を動かします。

腕だけで身体を引き上げようとすれば、上肢全体への負担が増えやすくなります。

失敗レップを増やさない

握力がなくなってキップのリズムも崩れているのに、無理に続ける。

バーに上がる。

失敗する。

また上がる。

これを繰り返すと、レップは増えないのに握力だけを使います。

鉄棒で重要なのは「何回連続できるか」ではなく、「何回なら同じセットをもう一度できるか」。

▶ Toes to Barのコツ|届かない・連続できない原因を改善


Deadlift・Clean・Snatchで握力を残す

バーベルではMovementによって握り方が変わります。

Deadlift

通常のダブルオーバーハンドで持てる重量なら、その握りで行う方法があります。

重量が上がり、通常のグリップでは保持しにくくなってきた場合には、フックグリップやミックスグリップなど別の選択肢を検討します。

TONYコーチポイント|重量が上がり、握力が足りなくなったときの握り方
TONYコーチはDeadliftについて、重量が上がってくると「握力が足りなくなって、もうバーをこれ以上持てない」という段階が来ると説明しています。その場合の選択肢として、フックグリップやミックスグリップを紹介しています。重量が上がって通常のグリップでは保持しにくくなってきた場合は、目的に応じて握り方を使い分ける方法があります。

ただし、WODで何十回もDeadliftを繰り返す場合と、最大重量に近いDeadliftを行う場合では目的が異なります。

WODの重量、回数、技術レベルに合わせてコーチと相談します。

Clean・Snatch

CleanやSnatchではフックグリップを練習しておくメリットがあります。

単に「握力を節約する」だけではなく、腕の余計な力みを減らし、脚や股関節で生み出した力をバーへ伝えやすくするためです。

特に高レップWODでは、毎レップ強く握り直すより、一定したグリップを作れる方が動作も安定しやすくなります。


チョークは多ければいいわけではない

手が汗で滑る場合、チョークは有効な道具です。

しかしWOD中に毎回チョークへ行くと、Vol.41で解説したトランジションのロスにもなります。

セット終了。

チョークまで歩く。

チョークをつける。

少し休む。

再びバーへ戻る。

これを毎ラウンド繰り返すと、大きな時間になります。

必要なのは、

  • 本当に滑っているのか
  • 単に前腕が疲れているのか
  • どのラウンドでチョークを使うか
  • グリップを使っている場合にも必要なのか

を分けて考えることです。

「握れない=チョーク不足」とは限りません。
前腕そのものが疲れているなら、チョークを増やしても握力は戻りません。

▶ WODのトランジションを速くする|道具配置と動線の作り方


グリップを使う目的を整理する

Pull-upやToes to Barでは、CrossFit用のグリップを使う選手も多くいます。

グリップの役割には、

  • 鉄棒を握りやすくする
  • 手のひらを保護する
  • バーとの摩擦を安定させる

といったものがあります。

ただし、グリップをつけたから握力を一切使わなくなるわけではありません。

自分が使っている鉄棒との相性や、グリップの素材、サイズ、装着位置によっても感覚は変わります。

TONYコーチポイント|「鉄棒用」のグリップを正しく使う
TONYコーチは、一般的なトレーニング用グリップとCrossFitの鉄棒Movement向けグリップは目的が異なると説明しています。鉄棒で使うグリップでは、バーとのグリップ力や手の保護を考える必要があります。TONYコーチ自身も、鉄棒へ吸い付くように保持しやすいCrossFit用グリップを使用しています。グリップを付けることではなく、自分のMovementに合ったものを正しく使うことが重要です。

また、鉄棒とバーベルが交互に出るWODでは、グリップの付け外しや切り替え時間まで考えます。


握力が落ちたときのサイン

WOD中に次のような変化が出たら、握力が大きく落ち始めている可能性があります。

  • Pull-upバーで手がずれてくる
  • Toes to Barのキップはできるのに手が先に開く
  • Deadliftでバーが指先へ移動してくる
  • CleanやSnatchで毎回握り直す必要がある
  • 前腕がパンパンになり指を動かしにくい
  • セット数が急激に小さくなる

ここで無理に同じセット数を維持するのではなく、早めに分割を変えます。

例えば、

10+10

だったものを、

5+5+5+5

へ変更する。

セットは小さくなりますが、失敗レップや長い休憩を避けられる場合があります。


WOD前に握力戦略を決める

Grip Fatigueは、WODが始まってから対応するより、事前に考えておく方が対策しやすくなります。

STEP 1|握力を使うMovementを全部確認する

Pull-upだけを見るのではなく、Deadlift、Row、Dumbbellなども含めます。

STEP 2|総レップ数を見る

10 Pull-upsなのか、10回×10ラウンドなのかでは意味が違います。

STEP 3|セット分割を決める

最大回数ではなく、複数ラウンド再現できるセットを考えます。

STEP 4|グリップを決める

バーベルでHook Gripを使うのか、鉄棒でグリップを使うのか、事前に決めます。

STEP 5|チョークを使うタイミングを決める

毎セットではなく、必要な場所をあらかじめ考えます。

STEP 6|後半の変更プランも持つ

予定が10+10でも、握力が落ちたら5回ずつへ変えるなど、次の選択肢を準備します。

握力戦略は「握力がなくなったらどうするか」ではなく、「握力をなくさないためにどう進めるか」。


よくある質問

Grip Fatigueとは何ですか?

手指や前腕が疲労し、バーや器具を握る力を維持しにくくなった状態です。CrossFitではPull-up、Toes to Bar、Deadlift、Clean、Snatch、Rowなど複数のMovementで握力を使うため、WOD後半のボトルネックになることがあります。

握力が弱いなら握力トレーニングをすれば解決しますか?

握力そのものを強くすることも一つの方法ですが、WODでは握りすぎ、長すぎるセット、Movementの並び、握り方などでもGrip Fatigueが起こります。握力を鍛えることと、握力を無駄に使わない戦略の両方を考えます。

Pull-upは何回でセットを切ればいいですか?

最大回数だけでは決められません。総レップ数、ラウンド数、次のMovement、自分の回復速度を見て、短い休憩で同じ回数を複数セット再現できるところで分けます。

フックグリップを使うと握力は疲れにくくなりますか?

CleanやSnatchなどでは、親指を指で固定するフックグリップによってバーを安定させ、指や前腕を必要以上に握り込まず保持しやすくなります。ただし親指に痛みが出やすいため、軽い重量から徐々に慣らします。

Deadliftではミックスグリップを使った方がいいですか?

重量や目的によって選択肢になります。ただし通常のトレーニング、高レップWOD、最大重量では目的が異なります。ダブルオーバーハンドやフックグリップも含め、自分の技術レベルとWODの内容に合わせて使い分けます。

チョークをたくさんつければ握力は残りますか?

チョークは汗による滑りへの対策にはなりますが、前腕そのものの疲労を回復させるものではありません。滑っているのか、握力自体が疲れているのかを分けて考えます。

グリップを使えば握力は疲れなくなりますか?

グリップは鉄棒を保持しやすくしたり手のひらを保護したりする助けになりますが、握力を使わなくなるわけではありません。セット分割やキッピング技術などと組み合わせて考える必要があります。

握力がなくなってきたらWOD中にどうすればいいですか?

失敗するまで同じセットを続けず、早めにセット数を小さくします。例えば10回ずつから5回ずつへ変え、短い休憩で再開できる形へ調整します。


まとめ|握力は「限界まで使う」のではなく「最後まで残す」

  1. WOD全体で握力を何回使うか確認する
  2. 必要以上に強く握り込まない
  3. 親指を含めてバーを安定させる
  4. Clean・Snatchではフックグリップを練習する
  5. 握力が限界になる前にセットを切る
  6. 次のMovementまで含めてセット数を決める
  7. 鉄棒では失敗するまで粘らない
  8. バーベルは目的に合わせて握り方を使い分ける
  9. チョークと休憩を同じものにしない
  10. グリップはMovementに合ったものを使う
  11. 握力低下のサインが出たら早めにセットを変える
  12. WOD開始前に握力戦略を作っておく

CrossFitのWODで握力が先に終わると、身体にはまだ余力があってもMovementを続けられなくなります。

だから、握力が強ければいいというだけではありません。

最初から強く握りすぎない。

適切なグリップを使う。

限界になる前にバーから離す。

次のMovementまで考える。

握力を最後まで「残せる人」が、WOD全体を止まらず進めやすくなります。

次に読む記事

▶ クロスフィット完全ガイド・全51記事を見る


本記事はSA1NT JAPAN編集部が企画・調査・執筆し、CrossFit Uninterruptedのオーナー兼ヘッドコーチである板谷友弘氏の専門監修を受けて作成しています。


参考資料


この記事はSA1NT JAPAN編集部が作成し、CrossFit Uninterruptedヘッドコーチであり、HYROX競技にも挑戦している板谷友弘氏の監修を受けています。

専門監修

板谷友弘(UFIT Tony Coach/CrossFit Uninterrupted オーナー兼ヘッドコーチ)

板谷友弘(いたや ともひろ)氏は、日本を代表するクロスフィットアスリートであり、世界最高峰の舞台であるCrossFit Gamesに出場。2021年にはCrossFit GamesのMen 35–39部門で世界15位。さらに2026年には、40歳以上の世界トップ選手が競うMasters CrossFit GamesのMen 40–44部門に出場し、世界29位を記録しました。2026年、日本人として世界最高峰の舞台に立ったのは彼1人のみです。

また近年はHYROX競技にも積極的に取り組み、本格的なランニング競技経験がない中、HYROX大阪大会では総合3位・日本人選手2位に輝きました。

CrossFit Gamesという世界最高峰の舞台を選手として経験し、現在も現役アスリートとして挑戦を続けながら、世界レベルの競技経験と、CrossFitとHYROXの両方を深く理解する数少ない日本人コーチとして数多くのアスリートを指導してきた経験を活かし、本記事の監修を担当しています。

板谷友弘コーチ UFIT Tony Coach

TONYコーチポイント:

WODで握力が先に終わる人は、「握力が弱い」と考える前に、自分がどのようにバーを握っているかを見てみてください。バーベルが重くなるほど、落とさないように強く握って前腕や腕全体がガチガチになってしまうことがあります。CleanやSnatchではフックグリップを使うことで、親指をロックして他の指に必要以上の力を入れずに持ちやすくなります。Deadliftでも、重量が上がって通常のグリップでは保持しにくくなった場合には、フックグリップやミックスグリップなど握り方を変える選択肢があります。また鉄棒Movementでは、握れなくなるギリギリまで続けるのではなく、まだ少し余裕があるところで一度降りて短く休み、同じセットを繰り返すことも重要です。WODでは最大何回握り続けられるかではなく、最後まで握力を残して動き続けられるかを考えてみてください。

トニーコーチの情報はこちらから↓
🌐 CrossFit Uninterrupted

Instagramトニーコーチ Instagram InstagramUFITジム Instagram YouTubeトニーコーチ YouTube

```

← メディア一覧に戻る